書評

2026年5月号掲載

『もうひとつ、いいですか?』刊行記念特集

「人が14歳の時に観た作品最強説」は本当か?

三谷幸喜・ペリー荻野『もうひとつ、いいですか?』

高橋洋二

対象書籍名:『もうひとつ、いいですか?』
対象著者:三谷幸喜・ペリー荻野
対象書籍ISBN:978-4-10-356811-7

 私は昭和36年生まれなので、三谷幸喜さんは同学年でペリー荻野さんはひとつ若いという同年代、私が放送作家として関わった番組では三谷さんには「ボキャブラ天国」に、ペリーさんには「タモリ俱楽部」に出演していただいた。そして物書きとしては同類の〈昔のことをよく覚えてる系〉に属する者である。
 その〈よく覚えてる系〉の先達による、記憶の名著といえば数々あれど『お楽しみはこれからだ』(和田誠)、『不良少年の映画史』(筒井康隆)がすぐに思い当たる。『不良少年の~』の文庫版『不良少年の映画史〈全〉』(文春文庫)の解説は色川武大。これがもう手放しの大喜びの文章で、解説というより、あまりにも筒井康隆さんの記憶再現力が完璧なので「仕方がない。こうなれば、私は私。勝手な一文を記す」と「モンティ・バンクスで、どうしてウレしくなったか」といった、自分たちだけが好きだった俳優について踊るような文章を寄せている。またこの解説では映画などの好みについて同好の士として小林信彦さん、森卓也さんの名前をあげている。そう、ここまで名前をあげた皆さん、私の10代の頃からの憧れの人物ばかり、「記憶と愛情と娯楽」についての「てにをは」を教えていただいた人たちである。それらは三谷さんペリーさんも同じなのではないかと思い筆を進めます。
 本書は「大河ドラマ」「海外ドラマ」「刑事探偵ドラマ」「ホームドラマ」「追悼・西田敏行さん」「1973年」からなる6章立てで成り立っている。
 どの章でもお二人の記憶力と愛情は一級品だ。数々の名シーンやグッときた演技の再現力など、前のめりで話している様子が伝わってくる。また、三谷さんは大河ドラマ「風と雲と虹と」(1976年)の最終回を観たあと、平将門にのめり込むあまり夜中に家の廊下を馬に乗って走り回った(いわゆるエア馬)という。ペリーさんは、日曜夜8時は「オールスター家族対抗歌合戦」を観る家だったので、大河は自分だけで壊れかけたモノクロテレビでこっそり観ていたという。このような当時の視聴環境にまつわるエピソードも豊富で、昭和の少年少女がいかに自分の好きなテレビを「熱く」観ていたのかよくわかる。
 お二人は長じて、大好きだったテレビの世界に深く関わるようになる。大河に関しては、三谷さんは脚本家として、ペリーさんは取材するライターとしてNHKを訪れるが、二人ともまず渋谷のスタジオの素晴らしさにため息をつく。「御所も城内の居室も農民の小屋も山も小川も竹林も畑も次々に再現される魔法の空間」(ペリー)、「小さなスタジオで信じられないほど多くの場面が撮影されていることを知り、驚きました」(三谷)といった描写から始まる〈現代編〉が絡んできて内容がさらに立体的になっていく。ペリーさんが萩原健一さんにインタビューする機会があった時、編集部からは「傷だらけの天使」について聞いてくれと言われたが、どうしても「勝海舟」の岡田以蔵の話を聞きたくて……というくだりも微笑ましい。私は映画などでも主人公が職業を得る嬉しさを描いたエピソードが好みだったりするが、本書はそんな青春ものの手触りもある。
 ゆえにお二人の話は、その作品を観ていればもちろんのこと、観ていなくてもとても読みごたえがあるのだ。
 三谷さんは、個人的な思い入れを自分の作品に取り入れることに関して、「生きがいですから。僕の人生は、小学生の時にインプットされたものを再現するためにあるようなものです」と言い切っている。コント作家の私も大好きな「タワーリング・インフェルノ」でのロバート・ワグナーが、火の海を駆け抜けようとする間際のセリフ「これでも学生の頃は陸上部だったんだ」を「爆チュー問題」で田中裕二に言わせたことがある。二人ともそのあと火だるまになるのだが。
 もうひとつ嬉しかったのは、あるテレビ番組で西田敏行さんが爆笑問題と共演したコントが「圧巻でした」とペリーさんが仰ってくださっているが、そのコントの台本は私が書きました(「はばたけ!ペンギン」)。ほとんどアドリブだったが、西田さんのオチのセリフだけは決めていた。「今やろうと思ったのに言うんだもんな!!」である。
 最後にお二人の会話に無理矢理自分のことをねじ込んでしまったが、本書は多くの読者にとっても、その時私はこうしていた、こう思ったといった自分史と重なり合う楽しさと感慨にあふれているはずである。

(たかはし・ようじ 放送作家)

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