書評
2026年7月号掲載
子どもが自走するために親ができること
大森治幸 大森陽生『みるみる自走する! 子育てはリアクションが9割』
対象書籍名:『みるみる自走する! 子育てはリアクションが9割』
対象著者:大森治幸、大森陽生
対象書籍ISBN:978-4-10-356931-2
親の言葉は子どもに一番届きにくい。
残念ながら、本当です。思春期前後は特にそう。親が善かれと思ってかけた言葉が子どもを頑なにし、親子の間に見えない壁を作ります。
僕は教育YouTuberとして、普段小中高生向けに授業動画を配信しています。講演などで親御さんにお伝えするのは、「こういう世界もある」と伝えるのが親の役割だということ。それに手を伸ばすかどうかは子ども次第です。
我が家にも、中学生と小学生の二人の息子がいます。本書を読んで、上の子が中学に上がってからの環境の変化とともに、僕自身の発する言葉やリアクションがとげとげしくなっていたことに思い至りました。子どもたちが小さかった頃は「パパも失敗するからさ」とお互い対等な関係でいたはずなのに、子どもの年齢が上がり、社会に出る日が少しずつ近づいてくると、親の側も「ちゃんとさせなきゃ」と余裕がなくなってくるのかもしれません。日常のちょっとした失敗に対しても、つい「何やってるんだ」と親の自分が高圧的なリアクションをしてしまうこともありました。それが逆に子どもに失敗することへの恐怖心を抱かせていたのではないかと反省したのです。
大人は「失敗の経験値」があるからこそ、先回りして子どもにアドバイスをしたくなります。しかし、自分で実際につまずいて、痛い思いをしなければ本当の意味での学びには至りません。親の先回りは、子どもにとっては「自分は親から信用されていないのだ」というメッセージになることもあります。
一方で、共感したのは、子育てにしても勉強にしても、「主役は子ども」ということ。大森治幸さんも、息子の陽生くんがどう感じるかを第一の視点にしています。僕も、子どもたちがやりたいものは応援するし、やりたくないものはその思いを受け入れるというのを大事にしてきたので、根っこには大森さんと同じ部分があると感じました。
僕は日頃から「しなきゃ」と「したい」の違いをとても大切にしています。大人も、「しなきゃ」と思った時点で、それはただの苦痛な義務になりやすいですよね。子どもも同じ。親の顔色を窺ってノートを開くような状態は、本当の「自走」とは言えません。
大人は、「早く終わらせればご褒美が待っている」などとマインドセットをすると「しなきゃ」が薄れて「早く終わらせたい」のようにもっていくことができますが、子どもにはまだ難しい。だからこそ、「したい」に素直なので、うまくマインドセットができれば、勝手に自走します。
僕の動画でも、「後でこれやらなきゃって思いながら過ごす自分のリフレッシュタイムって、リフレッシュの質が下がらない?」などと提案をしています。もちろん、そのアドバイスが全員に届くわけではありません。ただ、そういう発想自体がない子も多く、提案が選択肢の一つになるのです。
子どものスイッチを「したい」側へ入れるために親ができるのは、「選択肢だけを子どもに与えること」です。勉強法にしても、何にしても、動画や本を親が強制的に与えたところでやりません。「こういう世界があるんだよ」と、ただ食卓の片隅にそっと置いておくだけにする。それをいつ手を伸ばして摑み取るかは、子ども自身の主体性に委ねるしかありません。
でも、親としてはとにかくやってほしいのも分かります(笑)。もし、主体的にやる確率を少しでも上げたい場合、親が直接言うのではなく、友達や信頼できる第三者など「横からの言葉」をうまく巻き込んで、子どものハードルを下げてあげる。それが経験上、最も効果的です。
僕は、子育ての楽しさの本質とは「子どもに失敗をさせないこと」ではなく、「失敗してすり傷を作った子どもを支えること」にこそある、と思っています。
息子たちはバスケットボールをしていますが、試合で負けた時に僕がするのは、悔しい気持ちをまずは丸ごと受け止め、落ち着いた頃合いを見計らって、具体的なこれからの行動に一緒に落とし込むこと。この未来に向けたマインドセットを手伝う伴走こそが、親の腕の見せ所です。
最初にお伝えした通り、思春期を迎えた子どもにとって、親の言葉が届きにくいのは本当です。それでも、ここぞという場面において、一番深く効くのもやはり親の言葉なのです。どんなに第三者が応援しても、心から支えてほしいと思っている家族の応援には勝てないんですよね。
親が子どもにできるのは、選択肢を提示することと、マインドセットの手助けという「伴走」である。そして、「しなきゃ」ではなく「したい」を応援することです。
大森さんのように毎回突き抜けたリアクションをとるのは難しいかもしれませんが、子どもを一人の人間として尊重し、面白がりながら信じて待つ。一人の親として、日々の我が子への向き合い方、そして自分自身の「リアクション」を見直してみたくなる、そんな温かいヒントが詰まっている一冊です。
(はいち 教育YouTuber)



