書評

2026年9月号掲載

小野不由美『幽冥の岸 十二国記』刊行記念

「十二国記」が好きな話

小野不由美『幽冥の岸 十二国記』

宮田愛萌

対象書籍名:『幽冥の岸 十二国記』
対象著者:小野不由美
対象書籍ISBN:978-4-10-124066-4

「十二国記」と私は運命でつながっている。それは私が初めて「波」に寄稿させていただいた時の表紙が『白銀の墟 玄の月』のカバーのイラストだったからである。もちろんそれだけでは運命と呼ぶには弱いだろう。しかしあれから七年弱経って、再び、今度は「十二国記」についてエッセイを書くことが出来たのだから、今、この瞬間に私と「十二国記」は運命でつながったと言えると思う。
 さて、そんな戯れ言は置いておき、私と「十二国記」の出会いについて話そう。
 大学四年生の秋から冬にかけて、私は体調を崩し、自宅で療養をする生活をしていた。食事の時間以外はほぼずっと寝ていて、余裕があるときは授業を受けたりちょっとした仕事をしたりするだけの生活であった。流石にそんな日々が続くと日常は退屈になる。本屋に行くことも出来なかった私は気まぐれに「十二国記」を全巻、ネット通販で頼んだ。犬を撫でているとき以外動かなかった心が、翌日に届いた文庫本たちを見て久しぶりに高鳴った。
 一日のほとんどを寝て過ごしていた私の体力は衰えていて、長い時間起きていることはまだ出来なかった。それでも、「十二国記」の面白さに読書をやめることが出来ず、一週間もかからずにすべて読み終えた。
 不思議なもので、子どもの頃から読書をずっとしていたせいか、夢中になれる作品に出会ってしまえば読書をやめられなくなってしまう。文庫本すら重くて、持って読めなかった私が、「十二国記」を読んでからはずっと本を読んでいるようになった。あのとき「十二国記」を読まなければ、私はもっと回復が遅れていたに違いないと思っている。
 さて、「十二国記」の魅力はたくさんあるが、シリーズ全体に共通する世界観の魅力でいえば、物語の説得力であると思う。
 十二の国があり、そのどの国の王も麒麟が選ぶというルールに則って物語は進んでいく。麒麟という存在は穢れを嫌い、心優しく、いつまでも王を信じて支える存在だ。王は麒麟によって選ばれることで王になり、王になれば命尽きることなく国を治めていかなくてはならない。王が間違った方向に政治を進め国が傾くようなことがあれば麒麟は病に臥せってしまう。王と麒麟は二人で一体となり国を治める。単純なルールであるが、国を治めるというのは簡単なことではないということがこの本を読むとわかる。国を思い、良くしたいと願っているにもかかわらず、どうしても思うようにいかないこともあるのだ。そう考えると、今国を率いている人たちは、隣に麒麟がいないのにすごいなあ、なんて思ってしまう。そして私たちも、麒麟が選んだ存在だから、という理由もないのにきちんとトップの下で生活をしているのだからすごいよなあ、と思う。私たち一般市民が心から慕ってついて行っているかは別として。
 物語を読み始めて、気がつけばこの世界観に引き込まれているのは、描かれる人間から生きている匂いがしそうなほど生々しいからではないかと思っている。文字ひとつひとつに人の生活があるのだ。戦うことに馴染みのない私たちにとって、本の中で描かれる争いは想像でしかない。生活だって、現代日本とは違いすぎてリアルに想像することは難しいだろう。しかし、本の中で生きている人間に命があるのだ。具体的にどこが、ということではなく、全てから感じるのである。
 私は人間の生々しさのようなものが苦手で、他人の立てる生活音も嫌だし、自分の立てる生活音すらも嫌だ。ちなみに汗をかくのも苦手だし体温があるのも苦手である。いつも冷えていてほしいと思ってしまうくらい。だから、最初はこの本から漂う人間らしさにうっ、となった。生々しい物語には二種類あると思っている。ひとつが平熱三十五度台前半の生々しさ。もうひとつが平熱三十七度近くある生々しさである。もちろんこの物語は後者だ。それでも、この国で生きる人間たちはこのくらい体温が高くないと生きていけないのだろうと思う。今ではこの熱量が愛おしい。
 そう言えば、大学四年生になるまでに「十二国記」を読まなかったのには理由があった。「ゴーストハント」は読んだことがあったので、小野不由美さんといえばホラーのイメージが強く、読む勇気が出なかったのだ。私は本当に怖がりで、「暗い家に帰るのが嫌だから帰ってくるまで絶対寝ないで」と親に言っていたくらいである。よく、ホラー耐性がある人は『魔性の子』から、ファンタジー好きは『月の影 影の海』から読むのが王道と言われているが、もちろん私は『月の影 影の海』から読んだ。ちなみに、『月の影 影の海』を読んだらぜひ、一度『魔性の子』を読んで先に進むのがおすすめだ。
 とはいえ、一度どれかを読んでしまえばもう「十二国記」を読んだことのない人生には戻れない。慎重に決めて、読み始めるべきである。

(みやた・まなも 作家/タレント)

最新の書評

ページの先頭へ