書評

2026年10月号掲載

星新一生誕100年

星新一って、こんな人

星新一『きまぐれカプセル』

星マリナ

「ショートショートの神様」の書籍未収録エッセイと新発見のショートショートを収録した記念作品集『きまぐれカプセル』の編集過程で、娘が見つけた父の軌跡とは──。

対象書籍名:『きまぐれカプセル』
対象著者:星新一
対象書籍ISBN:978-4-10-109855-5

「お父さんって、どんな人?」と、これまで数えきれないほど聞かれてきました。
「星新一の娘」を六十年以上もやっているのですから、答えをひとつ決めて、毎回それを言えばよかったのかもしれませんが、決まった答えはなく、毎回「うーん。ひとことで言うのはむずかしいんだけどなー」と悩みながらなんらかの回答をし、相手はたいてい「そうなんだ!」と感動してくれるということのくりかえしでここまできました。
 今回『きまぐれカプセル』の編集を通して、この本がその質問の答えになるのではないかと思うようになりました。ここに収録したエッセイは、「普段はこういう人なんですよ」という説明に使えそうなエピソードの宝庫です。

 ここで、『きまぐれカプセル』ができるまでの経緯をお話しします。2013年に刊行した『つぎはぎプラネット』(新潮文庫)の準備で未収録のショートショートをさがしていたときに、さがし出したものが予想に反してエッセイだったことが何度かありました。私はときどきそのことを思い出して、「もしも未収録のエッセイが三十編くらいあるのだとしたら、一冊の本にできるのではないか」と考えていたのでした。
 そこで私は、まず未収録かを特定できるシステムを作ろうと思い立ちました。エッセイは書籍に収録するさいにタイトルを変更することが多いと知っていたので、タイトルとは別に冒頭の一文を書き出した「最初の一句リスト」をつくり、十七冊の書籍に収録されているエッセイ六八九編をリスト化しました。
 そしていよいよ未収録エッセイの調査に着手。早々に、エッセイは冒頭の一文を変更していることも多い、という事実に気づきました。雑誌掲載時には「ついこの間」「二週間前」などと書き出していたものが、書籍収録時には「何年か前のこと」「昭和◯年頃」などとかわっているのです。そうだったのか。結局、リストにはあらすじも書くことに。
 掲載誌と切り抜きが大量に入っている箱(最相葉月さんが評伝『星新一 一〇〇一話をつくった人』〈新潮文庫〉執筆時にまとめてくださった箱です)をあけ、未収録エッセイと思われる誌面の写真を撮り、それらが未収録かを特定していきました。ここで、すっかり青ざめる私。未収録と判明したのは三十編どころではない。百編、二百編をすぎて、まだまだ終わらない。二十箱とスクラップブック四冊、そのほかの調査で、アンケート回答や近況報告をふくめて、四〇〇編以上みつかりました。こんなにあったの!? 把握できていないエッセイはまだありそうです。そのなかにはおもしろいものもあるでしょうが、全容把握をめざしたらいつまでも本が出ないので、ここで一度区切ることにします。生誕百年なので。
 大量にみつかった未収録エッセイから、ではどれをえらぶのかという段階になり、私は父の「自伝」を作ってみたいと思いました。星新一が自分について書いたエッセイが、こんなにみつかったのですから、こんなチャンスはないです。自分について書いたものを中心に九十一編をえらび、エッセイの発表年ではなく、書かれている内容の時系列にならべました。幼少期から晩年までの話が時間とともに流れていき、自伝のように読めるのではないかと思います。

 こうして未収録エッセイをさがす過程で、未発表および未収録のショートショートがみつかったので、間借りして三編のショートショートも収録いたしました。
「聖地」は、今年、父の遺品のなかから下書きの状態でみつかりました。掲載誌はみつかっていないので未発表と思われます。タイトル案らしき「神殿」という言葉が紙の端に書いてありましたが、「神殿」という別内容のショートショートがすでにあるので、「聖地」というタイトルをつけました。下書きの二枚目には「神 ロケット島流し」という記載があり、もしかするとこの「神」がロケットで宇宙のかなたへ送られるという展開を考えていたのかもしれません。そうすると、この作品は未完の可能性もあります。父の下書きは、デビュー後に書く文字が小さくなっていったので、比較的字が大きいこの作品は、かなり初期に書いたものだと思われます。AIに使用する電力が話題となる現代。なんでもできるけれど電気代がかかるという視点は、先見の明があったと言えなくもないですね。
「未知の星で」は、中部日本新聞に発表したものの、なぜか書籍に収録されずにいたものです。スクラップブックに貼って保管されていました。「未知の星へ」という別内容でタイトルが一字ちがいのショートショートがあるので、自分でも混乱して、もう収録したものと思い込んでいたのかもしれません。インパクトのある、おもしろい話なのに、これまで抜けていたのはもったいなかったです。
「地獄案内」は、『つぎはぎプラネット』刊行の三年後にみつかったものです。ミステリファンの会報「SRマンスリー」に父が寄稿したものでした。この転生オチは「天使考」に似て、『きまぐれカプセル』全体のしめくくりに合っているような気もしています。

 せっかくなので、家族ならではの解説を少し。長女の名前は夕梨花であると書かれていますが、実際には片仮名でユリカです(「夕梨花」)。『きまぐれ星のメモ』(角川文庫)収録エッセイ「名前」によると、ソ連の宇宙飛行士ユーリ・ガガーリンにちなんだユリカに、佐藤春夫さんの詩から夕梨花という漢字を使おうと思ったら、当時は梨という字が命名に使えなかったので片仮名のままになったとのこと。このとき梨の字が受け入れられていたら、次女の私のマリナ(金星探査機マリナー2号から)にも漢字があったのかもしれません。
 本文中に四回出てくる「妹」というのは、私の叔母・鳩(やす)子(こ)です(「空港の感傷」「奇妙な雑誌」ほか)。アメリカ在住の日本人と結婚し、最期までアメリカに住んでいました。鳩子が送ってくるアメリカの雑誌は、デビュー当時の父を、作家としてどれほど有利にしたことでしょう。洋書店にさがしに行ったり、なれない通信販売を申し込んだりしなくても、妹に言えば読みたいものを送ってもらえたのですから、ラッキーでしたね。
 父は、自分の父親(星一)や祖父(小金井良精)についてはたくさん書きのこし、それぞれ本にまでなっているのに、母親(星せい)について書いているものはほとんどありません。そこで一編のみ未収録というルールをまげて、すでに『星新一すこしふしぎ傑作選』(集英社みらい文庫)に収録されているエッセイ「うきなす」を今回収録しました。星一は私の生まれるずっと前に亡くなりましたが、星せいは戸越銀座のわが家のとなりに住んでいて、二軒は廊下でつながっており、私は毎日遊びに行っていました。「うきなす」を読むと、父と祖母が台所で話している様子が目に浮かびます。

 最後に、その星せいの母親である小金井喜美子の和歌を紹介させていただきますね。喜美子は森鷗外の妹で、これは兄・鷗外が亡くなって何年か経ったときに鷗外のことを詠んだ歌です。今の私が父について思う気持ちを、これほど的確にあらわした文はほかにないです。

嬉しけれ 年を経れども 君が名は 人なほ云へり 存りし世のごと
(これだけの年月が経っても、世の中の人は今も、あなたが生きていた時のように、あなたの名前を口にしていてうれしいです)

 タイムカプセルから出してきたような昭和のお話を、みなさまにたのしく読んでいただけることを祈りつつ編みました。読みおわって父の名を口にしていただけたら、私もうれしいです。

※2026年8月末に刊行された『きまぐれカプセル』のために書かれた解説を再録しました。

(ほし・まりな 星新一次女)

最新の書評

ページの先頭へ