書評・エッセイ

2017年11月号掲載

驚きの神話図像コレクション

及川智早『日本神話はいかに描かれてきたか 近代国家が求めたイメージ』

五月女ケイ子

対象書籍名:『日本神話はいかに描かれてきたか 近代国家が求めたイメージ』
対象著者:及川智早
対象書籍ISBN:978-4-10-603817-4

 九年前に、古事記をマンガ化させていただきました。決しておしゃべりではない古事記ですが、その分、人々の想像を膨らませ、文学的にも歴史学的にも様々な説があります。生半可な気持ちじゃできないぞと、受験勉強のようにノートを取り、取捨選択につぐ取捨選択。そして、どうしても埋まらない行間に、現代人にも通じる感情と裏テーマを付け足す作業。気づけば三年たちました。
 もしその時に『日本神話はいかに描かれてきたか』を読んでいたら、描く絵が変わっていたと思います。この本は、様々な日本神話の図像を紹介しながら、なぜ近代に神話が重用されて行ったかを紐解きます。イザナキ・イザナミが婚礼博覧会のキャラクターになり、天浮橋はジオラマに、スサノオの絵葉書、神功皇后がパッケージになった婦人病の薬など、神話が、ずっと身近な存在だったことにトキメキました。その盛り上がりは、明治以降の天皇権強化のためだったのです。
 私のマンガ『レッツ!!古事記』はタイトルでお分かりのように、政治的意図は全くありませんが、古事記を広めたいという想いは同じでした。古事記大好きな女子編集者の「若者に古事記を読んで欲しい」との願いから、全力で若者に受けようと描きました。イザナミが腐った姿でパンツを畳み荷造りしたり、黄泉醜女(よもつしこめ)をヒョウ柄のおばちゃん風にしたり、絵に現代の要素をちりばめたのは、若者の心を掴みたかったからです。
 みづら(耳の横で長い髪を八の字に結ぶ古代の髪型)フェチの編集者の要望で、男の登場人物はみづらで統一しました。ただ同じに見えてしまうので北大路欣也のようにこめかみだけ白髪にしたり、リボンをつけたり、頭頂部を薄くしたり、こちらも現代風にアレンジしました。神様といえばこれという印象の髪型ですが、浸透したのはやはり明治以降だったそうです。「戦い」と「文明化」の象徴として、それまで埋もれていた初代神武天皇が、みづら姿でスポットを浴びたそう。
 掲載されている図像の中でも特に、ワニに乗ったウサギの絵は、インパクトといい神話とのミスマッチ感といい、素晴らしくて、描かなかったことを後悔しました。おなじみの神話「因幡の白うさぎ」に出てくるサメは、古事記の原本では「ワニ」とあり、東南アジアの似た説話にワニが出てくるという説と、昔サメをワニと呼んだという説があります。私が見た絵本ではいつもサメでしたが、それが明治の流れを汲んだ刷り込みだったとは...。ただ、とにかく、ワニのモチーフとしてのポテンシャルに心奪われました。著者の、龍のような想像上の生物としてのワニ説に、すごく納得です。
 近代の神話図像の背景を知り、新たな共感が芽生えました。クライアントの意図、人々を惹きつけるインパクト、純粋に描きたい気持ち。近代の絵師も絵に、色々な想いを詰めこんだのだな。
 そして、著者の研究が「パズドラ」にまで及んでいることにも深く感動しました。いつか拙著も研究対象にしていただけたら、とても光栄です。

 (そおとめ・けいこ イラストレーター)

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